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「永福町の家」
東京の中の落ち着いた住宅街の一角にあるこの土地は、江戸時代から東京の水動脈と なってきた神田川に面する河川敷であった。ご主人の子供時代には、よく水害に見舞 われた経験があったという。今では護岸が進んでいて、川は、人々の住む地盤から遠 のいてしまっている。その護岸工事のおかげで、周辺が整備され、隣接地には公園が 広がっている。また南側の川向かいには、電力会社の運動場があり、遠望が利いてい る。 敷地も東京の中では広い方で約90坪あった。旧家屋は継ぎ足しで作られ、通風や日 照が悪く、おまけに地盤が緩いため不等沈下していた。建て替えた家は、こうした様々 な敷地条件を克服することから始まった。まずは、接道のない敷地に対する対応。こ れは図らずも長い設計期間を生み出してくれた。そして、隣地を通っていた下水道と ガス管のやり変え。これも大変だった。そして地盤をあげることへの近隣との話し合 い。これもそう簡単なことではなかった。 ようやく、工事契約が終わると、今度は、木材の納期の問題が浮上した。見積時に、 東京、滋賀、そして徳島と3カ所から木材の見積りを取った。徳島からの運賃は、約 20万円であったが、東京の材木屋よりは、一割ほど安かった。同じ価格でも、木の 素性がわかっている方が使い甲斐がある。徳島のスギは、葉枯らしで頑張っている木 頭スギである。 この家の作りは、矩形図で見れば解るように、オーソドックスな越し屋根付きの切妻 である。その越し屋根をトップライトと通風に使っている。そしてOMソーラーとポ ット式石油ストーブが暖房を司る。 この家の材料は、木、土(珪藻土・漆喰)、紙(京からかみ・和紙の壁紙)、石、タイ ル、そして屋根を葺いている鋼板である。古い材料に新しさを感じ、その表現を遊ん でいる。極めつけは、床の間の床板。これはシナベニヤ下地に布張り。その布がとて もおもしろい。金箔地に、エンジ色の布を二枚重ねることで、モアレを出し、そのモ アレが木目に見えるというもの。不思議な床板が誕生した。
by h.maruya
| 2007-04-28 08:50
| ♥作品3永福町の家
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